出会いは、お金で買える。
いつからだろう、「出会いがなくて」なんて誰かに恋人の有無を聞かれるたびに返しはじめたのは。
出会いがない、のは嘘だ。
仕事していれば、毎日誰かしら新しい人には会う。
僕は営業だし、クライアントの担当はコロコロ変わる。
通っているジムにも知り合いはいる。
趣味の陶芸教室は主婦ばっかりだけど、毎月入れ替わりもある。
コミュニティの数だけ、人には出会っている。
でも、出会いがない、のはなんでだろう。
恋愛へのアンテナの感度が低いから?
人に興味がないから?
それよりも興味をひくものがあって恋愛どころではないから?
どれも当てはまるようで、どれも当てはまらない。
理由はシンプルで、「それらしい場にいない」から。
恋愛モードでない場所で出会ったとしても、それは「恋愛の出会い」じゃない。
職場もジムもカルチャースクールも、別に恋愛をしに行ってるわけじゃない。
もちろん、それを飛び越えて素敵な恋愛に発展する人もいるだろうけど、そうでない人もいる。
でも、それだけなんだ。
単純に「恋愛していいよ」って言ってくれる「場」があれば、腰の重い人だって探してみようかなって気になる。
そして、「恋愛ができる場」は、お金を払えばいつだって手に入る時代。
婚活パーティーでも、合コンでも、街コンでもいい。
お金さえ払えば、堂々と「恋愛をしていい自分」として、同じく「恋愛したい誰か」と会うことができる。
出会いは、お金で買える。
マッチングアプリで出会うのも、そんな感じなのかなと、「Pair’s」を眺めながら思う。
無料会員と有料会員の違い
「Pair’s」には、無料で使える機能と、有料で使える機能がある。
まぁ、そりゃそうだ。当たり前のことを言ってしまった。
無料会員は、「閲覧」と「いいねを押す」だけが可能。
だから、ただ見るだけなら、文字通りタダ。
試しに…と思っている人にとっては、非常に良心的だ。と思う。
対して、有料会員は「メッセージの閲覧・返信」が可能。
もしも「いいね」を送って相手に受け入れられれば、メッセージのやりとりを開始できる。
もちろん、やりとりしてみて何かしっくりこなくて途切れてしまうこともあるけど、上手くいけばデートまでできる。
らしい。
筆者が言ってるだけで、僕は知らないけどね。
いずれにせよ、気になったコを探して、「いいねを押す」までは無料でできるから、僕は「ユカ」へ気になるその思いを込めた。
……そういえば、その日から1週間が経つ。
人との出会いは、うまくいくばかりじゃない

結局、ユカからの反応はなにもなかった。
いや、ひとつだけ、「足あと」が数日前に残されていた。
おそらく、僕が送った「いいね」に対して、気にしてプロフィールを見てくれたんだろう。
そのときはすごくソワソワした。
全く会ったことのない人と、恋愛を前提としてつながれるかもしれない高揚感。
なんだか久しぶりの感覚だった。
でも、反応はなかった。
たくさん「いいね」をもらっていたコだったし、振り向いてもらえないのも仕方ないけど、それでも残念さのほうが勝った。
何がダメだったんだ。
写真?
プロフィール?
趣味の登録?
ほかにも何か?
そんなことを考えているうちに、自分がだんだん「Pair’s」に本気になっているのが分かった。
もうすでに顔写真も出して、プロフィールも書いて、趣味の登録なんかもしている。
ここから引き返す理由も見当たらない。
僕は、出会いがほしいのだ。
あとはマッチングして、メッセージのやりとりをするだけ。
いや、それが難しいのだろうけど。
とりあえず、3ヶ月やってみよう。
そう思いついたときには、本人確認書類を写真で送り、購入の手続きを進める僕がいた。